北海道太平洋沿岸地域で繰り返してきた多様な津波 千島海溝南部で発生した2つの超巨大地震の断層モデルを構築
2026.01.07
研究
プレスリリース内容
ポイント
- 津波堆積物の調査および津波の浸水シミュレーションから、17世紀と13~14世紀に千島海溝南部で発生した2つの超巨大地震の震源特性を推定
- 2つの超巨大地震では破壊領域?すべり量が異なり、千島海溝では同じ地震が繰り返しているわけではない
- 津波を伴う過去の超巨大地震の多様性を理解し想定することで、今後の防災の高度化につながると期待
概要
国立研究開発法人産業技術総合研究所(以下「産総研」という)活断層?火山研究部門 伊尾木 圭衣 主任研究員、澤井 祐紀 研究グループ長らと、国立大学法人弘前大学大学院理工学研究科 岡田 里奈 助教は共同で、津波堆積物の調査および津波の浸水シミュレーションによって、北海道沖で17世紀と13~14世紀に発生した超巨大地震の破壊領域とすべり量を推定しました。
北海道沖の千島海溝南部では、十勝沖や根室沖におけるマグニチュード8クラスの地震が繰り返し発生しているほか、これらが連動して起こる超巨大地震も繰り返し発生してきました。後者のような超巨大地震の痕跡は、津波堆積物として北海道の太平洋沿岸地域に広く残されています。直近では17世紀、その前には13~14世紀に超巨大地震があったことが示されていますが、津波堆積物の分布からこれら2つの地震は異なるタイプであった可能性があります。しかしながら、13~14世紀の地震については、断層の破壊領域や地震規模などの詳細は分かっていませんでした。
今回、北海道太平洋沿岸地域において、これら2つの超巨大地震について津波堆積物の調査と津波の浸水シミュレーションを行いました。その結果、2つの地震は異なる破壊領域?すべり量を持つことが判明し、千島海溝南部では異なるすべり分布を持つ超巨大地震が繰り返し発生し、それに伴い多様な津波が到来していることが示唆されました。本成果は、千島海溝南部における超巨大地震が、どの程度の間隔でどのような破壊の仕方で発生したかをより正確に理解することにつながり、それを想定することで防災の高度化につながることが期待されます。
なお、この研究成果の詳細は、2025年12月30日に「Geophysical Research Letters」に掲載されました。
開発の社会的背景
北海道沖の千島海溝南部では、十勝沖や根室沖において、観測データや歴史資料からマグニチュード8クラスの大規模な地震が過去に繰り返し発生したことが知られています。最近の例としては、2003年十勝沖地震や1973年根室沖地震が挙げられます。さらに、これらの地震より規模の大きい、十勝沖と根室沖の領域が連動して破壊する超巨大地震が約400年の間隔で発生してきたと推定されており、直近では17世紀に発生したと考えられています(超巨大地震(17世紀型))※1。北海道太平洋沿岸地域では、このような超巨大地震に伴う津波が陸上に運んだ津波堆積物が多数確認されており、同規模の地震が繰り返し発生してきたと推定されています。
津波堆積物の調査から、17世紀の前には13~14世紀に超巨大地震と津波が発生したことが示されていますが、その津波堆積物の分布は17世紀のものとは異なり、それらの地震は異なる破壊の仕方で発生した可能性があります。これまで千島海溝南部の超巨大地震について、数値シミュレーションなど地球物理学的手法により震源域や規模が詳細に推定されているのは17世紀の地震のみでした。それ以前の地震については、地質学的手法から発生年代や繰り返し間隔は推定されているものの、破壊領域やすべり量などは分かっていません。
研究の経緯
過去に発生した超巨大地震が、どの程度の間隔で、どのような破壊様式で繰り返し発生してきたのかを明らかにすることは、地震の再来間隔や将来の発生可能性を評価するうえで重要です。特に、津波を伴う地震の発生間隔や破壊様式を詳細に把握することは、津波防災対策の高度化に不可欠です。
産総研ではこれまで、津波堆積物の調査などの地質学的手法に加えて津波の浸水シミュレーションなどの地球物理学的手法を組み合わせ、過去に発生した超巨大地震の破壊領域や規模の推定に取り組んできました(2021年9月3日産総研プレス発表)。今回、先行研究※2により確認されている北海道太平洋沿岸地域の津波堆積物において、西側の十勝地域では17世紀の津波の方が、東側の根室地域では 13~14世紀の津波の方が、より内陸に分布していることに着目して、2つの地震の破壊領域やすべり量の推定に取り組みました。 なお、本研究はJSPS科研費(20H01988)の支援を受けています。
研究の内容
北海道太平洋沿岸では、先行研究により津波堆積物の分布が調べられています。本研究では、17世紀と13~14世紀の津波堆積物の分布状況の違いをさらに詳しく調べるため、浜中町霧多布の25地点、白糠町恋問の32地点、釧路市馬主来の3地点、大樹町当縁の28地点で掘削調査を行いました(図1)。堆積物中から津波堆積物を識別するために、地層中の火山灰層の分布、放射性炭素年代測定、堆積物中に含まれる砂の含有率の変化を調べ、先行研究との対比を行いました。この結果、浜中町の霧多布湿原では、先行研究が示した堆積物の分布限界より1km程度内陸まで17世紀と13~14世紀の津波堆積物を確認することができました。

図1:津波堆積物の調査風景(釧路市馬主来)(左)と採取された柱状堆積物試料(右)
火山灰層の下に17世紀の津波堆積物が認められる。13~14世紀の津波堆積物はその下に分布している(砂の含有率の変化と放射性炭素年代測定結果から判断した)。
本研究により更新した津波堆積物の分布と、先行研究で示された津波堆積物の分布を再現するため、津波の浸水シミュレーションを行いました。17世紀の地震に対しては1通り、13~14世紀の地震に対しては7通りの断層モデルを考え、計算機上でそれぞれのモデルでどのような津波が発生するか検討しました。得られた浸水シミュレーションの結果と津波堆積物の分布範囲を比較し、13~14世紀の地震については、最も一致する断層モデルをその地震の破壊領域(津波の波源)としました。13~14世紀の地震の破壊領域は300km×100km、十勝沖のすべり量5m、根室沖のすべり量10m、地震の規模を示すMw(モーメントマグニチュード)は8.6と推定されました(図2)。一方、17世紀の地震の破壊領域は300km×130km 、十勝沖のすべり量10m、根室沖のすべり量5m、プレート境界浅部(海溝付近)のすべり量25m、Mwは8.8と推定されました。根室沖に面した霧多布湿原と、十勝沖に面した当縁湿原における、津波堆積物の分布範囲と津波の計算浸水範囲を比較すると、霧多布湿原では、13~14世紀の地震の方が17世紀の地震と比較して、津波堆積物と計算した浸水範囲がより内陸に分布しています。一方、当縁湿原では、17世紀の地震の方が、津波堆積物と計算した浸水範囲がより内陸に分布しています(図3)。
得られた推定結果から、千島海溝南部で繰り返される超巨大地震について、17世紀に発生した超巨大地震は十勝沖(西側)に大きなすべりを持つ地震であるのに対し、本研究で明らかにした13~14世紀に起きた地震では、十勝沖(西側)ではなく根室沖(東側)に大きなすべりを持つことが分かりました。このことは、千島海溝南部において「17世紀型」と呼ばれている超巨大地震は、全く同じ地震が再来しているわけではなく、異なるすべり分布を持つ多様な地震が繰り返しており、それに伴い多様な津波が到来していることを意味しています。

図2:17世紀(左)と13~14世紀(右)に発生した地震の断層モデル(赤色の四角)。
青丸は本研究?黒丸は先行研究より、津波堆積物が確認されている地域。
※原論文の図を引用?改変したものを使用しています。

図3:17世紀の津波と13~14世紀の津波による、津波堆積物の分布範囲と津波の計算浸水範囲の比較。根室沖に面した霧多布湿原(上)と十勝沖に面した当縁湿原(下)。津波堆積物の情報は本研究と先行研究※3、※4、※5より確認されたものを図示。
※原論文の図を引用?改変したものを使用しています。
今後の予定
過去200年程度の歴史記録しかない北海道東部では、巨大地震?津波の長い履歴を知るために地質調査を継続していく必要があります。今後は、現地での地質調査を継続し、過去に発生した超巨大地震?津波の実像をより詳しく復元していきます。
論文情報
■ タイトル:Difference in slip patterns between two prehistoric giant earthquakes along the southern Kuril Trench
■ 著者名:Kei Ioki, Yuki Sawai, Yuichi Namegaya, Dan Matsumoto, Koichiro Tanigawa, Yumi Shimada, Toru Tamura, Rina Okada
■ DOI:10.1029/2025GL118295
【引用文献】
※1:地震調査研究推進本部 (2017). 千島海溝沿いの地震活動の長期評価(第三版)https://www.jishin.go.jp/main/chousa/kaikou_pdf/chishima3.pdf
※2:Nanayama, F., Satake, K., Furukawa, R., Shimokawa, K., Atwater, B.F., Shigeno, K., & Yamaki, S. (2003). Unusually large earthquakes inferred from tsunami deposits along the Kuril trench. Nature, 424, 660–663. https://doi.org/10.1038/nature01864
※3:Satake, K., Nanayama, F., & Yamaki, S. (2008). Fault models of unusual tsunami in the 17th century along the Kuril trench. Earth Planets Space, 60, 925–935. https://doi.org/10.1186/BF03352848
※4:中村淳路, 澤井祐紀, 松本弾, 谷川晃一朗, 伊尾木圭衣 (2019). 北海道霧多布湿原一番沢における津波堆積物の分布. 第四紀研究, 58, 4, 303–312. https://doi.org/10.4116/jaqua.58.303
※5:Chiba, T., Nishimura, Y., & Ohtsuka, T. (2018). Fossil diatom assemblages during the last millennium in the Toberi River mouth area, Hokkaido, Japan. Diatom, 34, 8–29. https://doi.org/10.11464/diatom.34.8
語句説明
- 津波堆積物:津波によって海底あるいは海岸の堆積物が削り取られ、それが津波とともに運ばれて別の場所に堆積した砂泥や石。
- 津波の浸水シミュレーション:計算機上で、海で津波を発生させ、陸上へどの範囲まで浸水するかを数値計算によって再現する手法。断層モデルを仮定し、津波の高さと浸水範囲を推定することができる。
- 超巨大地震:本稿では、東北地方太平洋沖地震のような低頻度で発生するM(マグニチュード)9 クラスの超巨大なプレート間地震※1を指す。
- 断層モデル:断層を数値的に表現したモデルで、断層の位置、長さ、幅、すべり量、上端深さ、走行、傾斜角、すべり角の情報。本研究では断層を矩形と仮定した。
- Mw (モーメントマグニチュード):地震のエネルギー量を表す指標。断層の面積、すべり量、剛性率より求められる地震モーメントから算出される。
詳細
プレスリリース本文は こちら(2.1MB)
お問合せ先
弘前大学大学院理工学研究科 総務グループ 総務担当
E-mail:r_kohohirosaki-u.ac.jp
弘前大学理工学部 / 理工学研究科ホームページ:https://www.st.hirosaki-u.ac.jp/


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