長期糖尿病合併膵導管がんの新規発症機序の解明について
2026.01.08
研究
プレスリリース内容
本件のポイント
- 弘前大学大学院医学研究科 分子病態病理学講座(水上 浩哉 教授、山﨑 慶介 大学院生)、分子生体防御学講座(伊東 健 教授)、消化器外科学講座(袴田 健一 教授)を中心とする医学部研究グループは、パラフィン保存試料1を用いたプロテオーム解析2により膵導管がんが長期糖尿病により悪化するメカニズムを解明しました。
- 膵導管がんは最も予後が悪いがんのひとつです。5年生存率はいまだ9.9%です。そのため治療につながる新規病態の解明は必須となっております。糖尿病、特に3年以上の長期糖尿病は膵導管がんの発症、進展、予後悪化因子である事が知られております。
- 本研究において長期糖尿病合併膵導管がん症例において長鎖非コードRNA3であるMEG3の後天的遺伝子修飾4、およびその発現低下、プロテオーム解析によるMEG3の結合タンパクであるF11Rの同定、その発現の上昇が予後の悪化に関連していることが解明されました。
- これまで長期糖尿病による膵導管がんの悪化機序は不明でした。この研究によりMEG3, F11Rを標的とした新たな治療法の確立も期待されます。
- この成果は米国?カナダ病理学会雑誌であるModern Pathologyに掲載されました(令和7年12月16日校正前版掲載)。
本件の概要
膵導管がんは膵臓で発生するがんの中で最も頻度が高いがんです。その5年生存率はいまだ10%程度で、治療法が確立していません。その中でも3年以上の長期間の糖尿病を伴う膵導管がんは特に長期生存率が悪いことが知られております。本研究において、長期糖尿病合併膵導管がんでは腫瘍抑制性の長鎖非コードRNAであるmaternally expressed 3(MEG3)が、後天的遺伝子修飾の一種であるプロモーターのメチル化の亢進によりその発現が減少し、その結果、今回新たに同定されたMEG3結合タンパクである接着因子であるF11Rの発現が上昇し、膵導管がんの予後悪化に関連することを解明しました。
弘前大学医学部附属病院において膵導管がんの診断で外科的切除を受けた117例の膵臓標本を用いて、後方視的解析を実施しました。117例の膵導管がん症例において、長期糖尿病を合併した症例は腫瘍の分化度5が有意に低く、がん特異的生存率が低下していました。パラフィン標本からDNAを抽出し、後天的遺伝子修飾の一種であるプロモーターのメチル化をMEG3の遺伝子で検討したところ、高頻度でプロモーターがメチル化されていることが認められました。
一般的にプロモーターのメチル化の亢進は遺伝子の発現を低下させるため、パラフィン標本からMEG3を抽出しその量を検討したところ、MEG3量は長期糖尿病合併症例で有意に減少しておりました。MEG3のプロモーターのメチル化は、MEG3の発現の低下、がん細胞の静脈浸潤の増加、高い再発率、および予後不良と相関しておりました。
そこで、MEG3の標的となるたんぱく質を同定するために、パラフィン包埋サンプルを用いたプロテオーム解析およびタンパク質構造予測ツールを用いた解析を行いました。その結果、接着因子であるF11Rの発現が長期糖尿病合併症例で亢進しており、タンパク質構造予測ツールを用いた解析からMEG3の潜在的な結合タンパクであることが明らかになりました。F11Rタンパク質発現レベルは半定量的免疫組織化学法6を用いて評価したところ、長期糖尿病患者ではF11R発現の上昇が認められ、分化度の低下および予後の不良と相関しておりました。
さらに、MEG3プロモーターメチル化とF11R高発現を同時に示す膵導管がん症例では長期糖尿病を呈することが多く、MEG3のプロモーターメチル化のみもしくはF11Rの発現亢進のみを示す症例よりも腫瘍分化度の低下、静脈侵襲、腫瘍再発がより高度に認められました。
これらの知見は、長期糖尿病に関連した膵導管がんにおけるMEG3の後天的遺伝子修飾ならびにF11Rの発現亢進が予後の悪化規定因子であり、MEG3やF11Rが潜在的な治療標的となる可能性を示唆していると考えられました。
論文情報
■ 著者:山崎 慶介*1,2、水上 浩哉*1,#、山田 貴大*1,2、原 裕太郎*1,2、丹場 太陽*1,2、多田羅 陽太*3、王 朕超*1、板矢 晶子*1,2、櫛引 英恵*1、龍崎 正樹*1、佐々木 崇矩*1、類家 英史*1、小笠原 早織*1、塗 逸*1、石戸 圭之輔*2、伊東 健*3、袴田 健一*2
*1 弘前大学大学院医学研究科附属バイオメディカルリサーチセンター 分子病態病理学講座
*2 弘前大学大学院医学研究科 消化器外科学講座
*3 弘前大学大学院医学研究科附属バイオメディカルリサーチセンター 分子生体防御学講座
#責任著者
■ 雑誌名:Modern Pathology
用語解説
- 1. パラフィン保存試料:組織を長期間安定化させるために蝋状の化学物質であるパラフィンに埋めた組織標本
- 2. プロテオーム解析:質量分析装置を用いて数千単位のタンパク質の変化を視ることができる方法
- 3. 長鎖非コードRNA:タンパク質を作ることができないRNA
- 4. 後天的遺伝子修飾:DNAの配列を変化させることなく遺伝子発現を変化させる現象。がんにおいてよくおこる。プロモーターのメチル化の亢進は遺伝子のプロモーター領域にメチル基が結合し、mRNAの合成を低下させる現象。
- 5. 腫瘍の分化度:顕微鏡で膵導管がんの細胞を観察における元の膵臓組織との相似度。相似度が低ければ低いほど低分化となり、悪性度が高くなる。
- 6. 免疫組織化学法:薄く切ったパラフィン包埋された組織をガラスに張り付け、抗原-抗体反応により特定のたんぱく質の局在を探索する方法。
詳細
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お問合せ先
弘前大学大学院医学研究科 附属バイオメディカルリサーチセンター 分子病態病理学講座
教授 水上 浩哉
TEL:0172-39-5025
FAX:0172-39-5026
E-mail:hirokimhirosaki-u.ac.jp


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