弘前大学

高齢者の“生活の質”変化パターンとその予測因子を同定12年分のビッグデータ解析、健康寿命延伸へ重要な知見

2026.01.09

プレスリリース内容

本研究のポイント

  • 最大12年間分の地域高齢者のデータを活用した研究であり、健康関連 quality of life(QOL)注1)の変化パターンを同定した世界初の試み。
  • 一部の健康関連QOLは一様に低下するのではなく、“低下群”と“維持群”に分かれることを発見。
  • QOL低下には、睡眠の質、足の筋力や体の安定性、抑うつ傾向などの予測因子が関連。
  • 就寝時刻?起床時刻といった睡眠スケジュールの問題ではなく、睡眠の“質”自体が決定的に重要であることを発見。
  • ある時点のQOL得点が同じでも将来の軌跡が大きく分かれるため、早期介入の重要性を提示。
  • 非侵襲の検査や質問紙で“将来のQOL低下リスク”を推定できる可能性。

研究概要

名古屋大学大学院医学系研究科 実社会情報健康医療学の大島涼賀博士前期課程so米直播、中杤昌弘准教授、大橋勇紀助教らは、弘前大学の玉田嘉紀教授、三上達也教授、伊東健教授、村下公一教授らとの共同研究で、日本の地域在住高齢者910名から最大12年間取得した健康ビッグデータを解析し、高齢者の健康関連QOLの長期的な変化パターンとその予測因子を世界で初めて明らかにしました。

本研究では、弘前大学COI-NEXT拠点注2)が実施している大規模健康調査「岩木健 康増進プロジェクト健診注3)」のデータを活用し、国際的な健康関連 QOL指標 SF-36注4) の下位尺度をもとに、加齢に伴う身体的?精神的なQOLの変化を分析しました。その結果、一部の健康関連QOLは年齢とともに一様に下がるわけではなく、“維持できる 人”と“急に低下する人”に分かれることが分かりました。特に、SF-36の下位尺度のうち、日常生活に直結する指標において、睡眠の質の悪化、足の筋力や体の安定性の低下、抑うつ傾向などが、将来的なQOL低下リスクを上げることが明らかになりました。

これらの要因は、いずれも非侵襲の検査や質問票で測定できるため、身体的負担が少なく、高齢者の将来の健康関連QOLの予測や健康寿命延伸に向けた安全な政策介入へつながると期待できます。本研究成果は、2026年1月8日19時(日本時間)付で国際雑誌 『Scientific Reports』に掲載されました。

研究背景と内容

日本では超高齢社会の進展に伴い、心身ともに自立した生活を送れる期間である「健康寿命」の延伸が喫緊の課題となっています。そのため、致死的な疾患だけではなく、個人の「生活の質(QOL)」自体の向上?維持も重要であり、主観的な身体?精神?社会的健康を包括的に評価する健康関連QOLにも関心が高まっています。また、健康関連QOLは、将来の死亡率、心血管疾患の発症、さらには疲労感や倦怠感といった原因不明の体調不良とも関連することが報告されています。そのため、健康関連QOLは高齢者の健康状態 を早期にとらえる上で有用な指標です。しかし、従来の研究は単一時点の評価が中心であり、健康関連QOLの時間経過による変化やその変化に影響する要因については十分に明らかになっていませんでした。

本研究では、弘前大学COI-NEXT拠点が青森県弘前市で実施している大規模健康調査「岩木健康増進プロジェクト健診」のデータを活用し、日本の地域在住高齢者910名を対象に、最長12年間にわたって健康関連QOLを評価しました。この健診は毎年実施されており、その都度、SF-36を用いた健康関連QOL調査も行われています。SF-36 は、8つの下位尺度から構成され、身体?精神?社会的側面を総合的に評価できる指標です。長期にわたる多数のデータから共通する変化パターンを見つけるため、潜在クラス混合 モデル注5)という統計手法を用いて分析したところ、SF-36 下位尺度のうち、日常生活での活動を身体的?精神的影響によって困難を感じたかを反映する日常役割機能(身体); RPと日常役割機能(精神); REという項目のそれぞれにおいて、調査開始時点のスコアがほとんど同じであっても、その後も高得点を安定して維持している「維持群」と途中から急に低下してしまう「低下群」に分かれる複数の軌跡が存在することが明らかになりました(図1)。

図1

図1:潜在クラス混合モデルによる日常役割機能(身体)と日常役割機能(精神)の経時的な変化
縦軸が 100点満点のQOLスコア、横軸が経過年数を表しており、class1~3のそれぞれの潜在クラスの軌跡が図示されている。class1が維持群、class2が低下群である。

本研究グループはこうした低下を引き起こす要因を探るため、RPとREが低下した人の特徴を詳しく調べました。その結果、身体の安定性や足の筋力の低下がRPの低下と関連し、気分の落ち込みなどの抑うつ傾向がREの低下と関連していることが認められました。さらに、睡眠の質が健康関連QOLの将来の動きに大きく影響することも明らかになりました。眠りの深さ、寝つきやすさ、睡眠薬の使用、日中の眠気といった複数の睡眠に関する項目が、RPやREの低下と強く関連していたためです。一方で、就寝時刻や起床時刻といった「睡眠習慣(睡眠スケジュール)」についても分析したところ、睡眠習慣そのものには低下群と維持群で違いが見られず、睡眠時間の長さや睡眠時刻よりも「睡眠の質」が、将来の健康関連QOLを左右する可能性が高いことが示されました。

表1

オッズ比は、PSQI 注 6)の得点が1点悪化したときに、RPまたはREの低下リスクがどれだけ高まるかを示す指標であり、値が1.0より大きいほどリスクが増えることを意味する。例えば、オッズ比が 1.20であれば、その項目が1点悪化すると、QOL低下リスクが20%増えることを表す。95%信頼区間はその推定値の不確実性の範囲を示し、p値は統計学的に有意な関連かどうかを判断する指標で、p < 0.05(*)は統計学的に有意であると解釈される。太字のオッズ比は有意であることを示す。

成果の意義

本研究は、地域高齢者を対象とした健康関連QOLの長期的な変化とその変化を予測する要因を明らかにした初めての報告であり、高齢者の健康寿命を延ばすための基礎となる重要な知見を提供します。特に、ある時点で同じ健康関連QOLスコアを示していたとしても、その後に安定して維持される人と、急に低下する人が存在することを示した点は重要であり、単一時点の評価だけでは将来の健康状態を見誤る可能性があることが明らかになりました。

さらに、睡眠の質、足の筋力や体の安定性、抑うつ傾向といった非侵襲的で特別な機器を必要とせずに評価できる項目が、将来の健康関連QOLの低下リスクの要因であることが示されました。これらは地域医療や公衆衛生分野など、様々な場面で活用できる可能性があり、高齢者の健康寿命を延ばすための早期介入の実装可能性を高めるものです。これらの結果は長期にわたって健康関連QOLの評価を実施してきた岩木健康増進プロジェクト健診のビッグデータを活用したからこそ、得られた成果であると言えます。本研究は、国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)JPMJCE1302,JPMJCA2201, JPMJPF2210の支援を受けて行われたものです。

用語説明

  • 注1)健康関連QOL:一般的なQOLが仕事や趣味の充実度などを広範に指す中で、特に健康状態が原因で日常生活に及ぼす影響を捉える指標。
  • 注2)弘前大学COI-NEXT拠点:弘前大学では、文部科学省?JSTの「COI-NEXT」プログラムの拠点として、健康を基軸に地域経済を発展させ、高QOLの健康寿命を延伸するwell-beingな地域 社会モデルの実現を目指している。
  • 注3)岩木健康増進プロジェクト健診:弘前大学を主導に青森県弘前市岩木地区で実施されており、2005年から続く大規模な地域健康調査。身体計測、血液検査、体力測定、生活習慣、睡眠やメンタルヘ ルスのアンケートなど、全身状態を総合的に測定することが特徴で、地域の健康づくりや学術研究の基盤として活用されている。
  • 注4)SF-36:世界的に使用されている健康関連QOLを測る質問票。下位尺度は身体機能、日常 役割機能(身体)、体の痛み、全体的健康感、活力、社会生活機能、日常役割機能(精神)、心の健康という8つの側面から構成され、日常生活の健康を総合的に評価する。
  • 注5)潜在クラス混合モデル:多くの人のデータの中から、似たような変化パターン(今回はQOL低下/非低下)を示すグループを見つけ出す統計手法。
  • 注6)PSQI:ピッツバーグ睡眠質問票。眠りにつくまでの時間、睡眠の深さ、夜間の目覚め、日中 の眠気など、7つの項目で睡眠の質を点数化する。

論文に関する情報

■ 論文タイトル:Longitudinal Trajectories of Health-Related Quality of Life and Their Predictors among Community-Dwelling Older Adults
■ 著者:大島 涼賀(名古屋大学)、 大橋 勇紀(名古屋大学)、岩根 拓朗(弘前大学)、玉田 嘉紀(弘前大学)、木下 文恵(名古屋大学)、伊藤 友哉(名古屋大学)、奥村 裕斗(名古屋大学)、三上 達也(弘前大学)、伊東 健(弘前大学)、村下 公一(弘前大学)、中杤 昌弘(名古屋大学)* (*は責任著者)
■ DOI:10.1038/s41598-025-30307-8

詳細

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